私の『ヒールフリー史』(10) ~プラスチックブーツの登場

話は90年代後半まで進んできました。
この頃、テレマーク界には大きな変化が訪れます。そう、ブーツのプラスチック化です。

私自身がいつプラスチックブーツを買ったのかについては、正確な記録はありません。
断片的な記憶と「状況証拠」から探ってみます。

ウィキペディアによると、スカルパが最初のプラ靴『ターミネーター』を発売したのが93年とされています。
たしかに、94年の岳人3月号の用具紹介記事を見ると、スカルパ・ターミネーターⅡが載っています。
しかし、それ以外は全部革靴。板も細板全盛という感じで、この頃はまだまだプラ靴はキワモノ的存在だったと思われます。
ところで、この岳人94年3月号、ファッション誌的に、当時の山スキー用ウエアでフルコーディネートしたモデル(?)の写真が載っているのですが、そのダサいこと。
今売られている雨具よりも冴えないようなデザインとカラーリング。
当時の目で見ても、「これじゃあ『うわあかっこいい。自分もこんなウエアを着て山スキーに行ってみたい』とは思わないよなあ」と思ったことを思い出しました。

岳人94年3月号。ダサい!
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さて、登場当初こそ、革靴が当たり前のテレマーク界にあって、「そんなもの使えるのか?」と懐疑的な見方をされたプラ靴ですが、その普及のスピードは予想以上に速く、90年代中盤の数年の間に急速に一般化したと思われます。

と同時に、板の太板化も進み、『Rock&Snow』98年春号の記事「使えるギアカタログ」(北田啓郎さん執筆)には、「テレマークスキーに異変が起こっている。スキー幅のワイド化がそれだ。テレマークスキー幅の変遷はとうとうここまできたか、と思う。『終着駅』と言えるかもしれない。」と書かれるまでになっています(今から見れば、「終着駅」どころかまだまだ「入口」に過ぎなかったわけですが)。
この98年にテレマークレースのトップ幅73mm規則が廃止されたことにより、「来る'99シーズンに幅80ミリ以下の滑りタイプのテレマークスキーを店頭で探しても、もはや新しいものは一本もない」状況となっていたようです。
太板には当然、プラ靴が要求されますし、スカルパ・ターミネーター2の商品説明に「滑りと歩きのバランスをうまくまとめた定評のプラブーツ」と書かれていることからしても、既にプラ靴が相当普及していたことが分かります。

私はといえば、もともとテレマークの軽快さに惹かれてこの道に入ったこともあり、すぐにプラ靴に飛びつくということはありませんでした。
プラ靴の方が主流という状況になってから、ようやく購入したという記憶です。
長女を初めてスキー場に連れて行った99年1月の写真に、プラ靴と合わせて買ったはずのアトミックの板が写っているのと、プラ靴を履いて長女の『抱っこスキー』をした記憶があるので、おそらく98年のシーズン入り前に買ったのだと思います。

買ったのは、定番のスカルパ・ターミネーター2。
合わせて買ったアトミック・ARC(モデル名は自信なし)は、トップ幅80mmくらいで、今の分類で行けば十分細板ですが、それまでの革靴仕様の板に比べると異質で、とてもごつくて重いと感じました。
ターミネーター2はツアーにも使えると言われましたが、私には、とてもこの組み合わせでツアーに行くことは考えられませんでした。

このプラ靴を初めて履いたのが、11月の熊ノ湯での初滑りの時でした。
まずは慣れた革靴+フィッシャー・GTSで勘を取り戻し、ひとしきり楽しんだ後、プラ靴+ARCに履き替えます。
リフトを降り、いよいよ滑り出すと…がーん。なんだこれは!
革靴の場合、靴底全体がいわば足に合わせてしなやかに曲がりますが、プラ靴は蛇腹の部分だけがカクンと曲がり、ものすごい違和感。
後ろ足の押さえがうまくいかなくて、1本目はほとんどまともなターンができず、「ああ、とんでもない使えないものを買ってしまった」と、ゲレンデでひとり暗くなっていました。
しかし、2本、3本と滑っていくうちに、最初の違和感からすれば意外なほど早くプラ靴の感覚に慣れて、その日の内には全く普通に滑れるようになりました。

慣れてしまえば、プラ靴のサポート力の高さは、滑りの面では大きな武器になりました。
この頃は、テレマークでアルペンに負けない滑りをしたい、ゲレンデでの滑りの限界能力を高めたい、と思っており、そのためにはどう考えてもプラ靴の方が有利でした。
特に、コブの中での安定感には大きな差がありました。
また、保温や防水、メンテナンスの容易さでもプラ靴が優れていることはいうまでもありません。

こうして、「テレマークは軽快さこそが命なのだから」とプラ靴の流れに抗していた私も、あっさりと、ゲレンデではほぼプラ靴オンリーとなったのでした。

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