★★★2014.04.26~28 細革/GW白馬②(栂池~白馬岳~雪倉岳)
BCクロカンを愛するみなさん、こんにちは。
GW白馬2日目は、まさに最高のツアーになりました。
力が入り過ぎて、レポート長過ぎ、書くのに時間かかり過ぎ(笑)。
ご容赦下さい。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2014年4月27日 GW白馬② 栂池~白馬岳~雪倉岳
天候:晴れ
装備:(板)ポーラスター(靴)ビンソン
<コースタイム>
4:49 栂池ヒュッテ
7:05~7:16 稜線(船越ノ頭手前ピーク)
7:20 船越ノ頭
8:05~8:11 小蓮華山
8:55 三国境
9:51~10:02 白馬岳
10:10~10:32 白馬山荘
11:25~11:36 鉢ヶ岳のコル
12:04~12:28 雪倉避難小屋
13:12~13:38 雪倉岳
14:16 雪倉ノ滝上
14:30~14:52 トラバース地点
15:00~15:08 瀬戸川徒渉点
16:03 兵馬ノ平
GW白馬ツアー2日目。
思ったより低気圧の進行は遅く、当初3日目の後半には崩れると予想されていた天気が、3日目いっぱいまでもちそうである。
しかし、それでも4日目には天候悪化が避けられそうもない。
やはり予定を1日短縮し、今日雪倉岳を滑ることにする。
もともと石木田さんから勧められたのは、栂池ヒュッテを早朝に出発し、三国境から鉢ヶ岳を経由して雪倉岳に出て、蓮華温泉に下るというルートだった。
しかし、やはりこのチャンスに柳又谷も滑りたい。
栂池ヒュッテ~白馬岳~柳又谷~雪倉岳~蓮華温泉というルートは、『日本スキーツアールート集』(北田紘一編、山と渓谷社、1994年)では、途中白馬山荘で1泊する2日がかりの行程として紹介されている。
他の資料でも、この行程を1日で通過することになっているものはない。
しかし、『日本スキーツアールート集』では、雪倉岳から北面の遠回りルートを使っている。
雪倉岳は東面の最短ルートを滑ることにし、栂池から白馬山荘までと白馬山荘から蓮華温泉までの標準コースタイムの合計から考えれば、速いペースで1日で走破することもできないことはなさそうだ。
石木田さんに相談してみると、できると言われる。
そして、小蓮華山に至るルートとして、通常使われる天狗原~白馬乗鞍経由ではなく、栂池自然園を横断して金山沢をつめ、船越ノ頭に上がるルートを勧められる。
たしかにそのほうが近そうではあり、1日目に観察すると、そのルートで登っているパーティーがいたので、アドバイスに従い、そちらのルートをとることにする。
まだまほろば倶楽部参加者のみなさんが寝静まっている中起床し、予備の行動食で朝食をとって(前日に小屋に朝弁を頼むのを忘れていた…失敗)、出発準備をする。
ところで、私は、GWはテント泊と決めている。
柳又谷や雪倉岳での滑降を充分に楽しむためには、天幕装備を含む装備の軽量・コンパクト化が非常に重要である。
だが、既に昨年GWの尾瀬ツアーで装備の軽量・コンパクト化はかなり徹底してやっている。
昨年の装備に、アイゼン、ピッケル、スコップ等、今回のルートに必要最小限の装備を追加。
一方でさらに軽量化を追求し、今回も全装備をKODE38(Lサイズ42L)に納めることに成功、重量も昨年とほぼ同じ13kg強(水を含まず)に抑えることができたのは、予想以上だった。
準備を調えてヒュッテ前を出発したのは、夜明け前の4時49分。
当然のことながら雪は堅く、ステップの効きは非常に悪い。
初めからシールを貼ってしまおうかとも思ったが、少しでもスピードアップを図るためにはステップの利点を最大限に活用すべきと考えて、シールは貼らずに出発した。
自然園の平坦地と緩やかな下りでスキーを滑らせ、登りが始まるところでシールを貼る。
登り始めてほどなくして、日の出を迎える。
昨日ステップで登り、滑ったメロウ斜面を過ぎると、斜度が次第に増してくる。
それでも、いつもだったらまだ余裕で直登できる程度の斜度なのだが、今日はシールの効きが極端に悪く、しばしばバックスリップする。
ジグザグ登高に切り替えても、今度は接雪面が狭くなるためか、やはりグリップが悪い。
稜線までシールで登ることもできるのではないかと思っていた(実際、昨日登っていたパーティーはシールで登り切っていたようだった)のだが、こんな調子では時間と体力を浪費しかねないので、アイゼン登高に切り替えることにする。
板を外してシールを見てみると、シールの毛が逆向きになったまま固まってしまっている。
スキーのトップからシール面を手でしごいてみるが、元に戻らない。
これまでにも、立山などで早朝の堅い急斜面をシールで登るなんてことは何度もやってきたが、シールがこんな風になったのは初めてだ。
いつもと違ったことと言えば、昨年思わぬ新雪でシールの雪団子に苦労した反省から、出発前にたっぷりグロップストッパー(シールワックス)を塗ったことくらいだ。
逆立った毛がワックスで固まって、復元力が落ちたのだろうか。
アイゼンに履き替えて、登高を続ける。
12本爪のアイゼンを履くのはずいぶん久しぶりだ。
堅雪にアイゼンを効かせて登るのも、小気味よい。
稜線直下はステップが切られていたのでそれを利用し、7:05に稜線上、船越ノ頭わずかに手前の小ピークに到着。
ここまで2時間15分。
やはり天狗原経由より時間短縮できたのではないかと思う。
稜線に出ると、雪倉岳と、いかにもスキー向きの斜度で伸びる東面の大斜面がどーんと目に入る。
あそこを滑るのかと思うとワクワクする。
ここから小蓮華山までは、シールで行けないこともないだろうが、やや尾根が狭く、雪が飛んでいる部分もあるようなので、そのままアイゼンで進む。
小蓮華山は8:05着。いいペースだ。
これなら10時に白馬岳に着けそうだ。
小蓮華山を下りたコルから三国境までは、起伏の緩やかな広めの尾根に雪がしっかり乗っていて、いかにもシール登高向き。
履き替えの時間を入れても有利とみて、シールに切り替える。
この稜線から見ると、鉢ヶ岳のコルから雪倉岳までが思った以上に距離があるように見える。
白馬岳を越えた後にまた雪倉岳まであんなに登りがあるのかと思うと、柳又谷回りはやめて三国境から直接雪倉に向かってしまおうかと、弱気の虫が騒ぐ。
しかし、10時白馬岳なら柳又谷経由で充分行けるはずだと思い直し、頑張ることにする。
三国境から白馬岳に向かうと、すぐに雪壁に近い斜度の急斜面が現れる。
当然またアイゼンに履き替える。
さらに、短いがあそこまでの急斜面になると、ストックでは不安。
ピッケルを出す。
右手にピッケル、左手に短くしたストックという姿で、急斜面に切られたステップをたどる。
そこを越えると、なだらかな気持ちの良い稜線。
ピーク手前でもう一度急斜面を越え、9:51に白馬岳ピーク着。
ゴールデンウイークで賑わっているかと思いきや、人は少ない。
主稜を登ってきたパーティーが2組と、なぜかダブルアックスで歩いてきたテレマーカー1人(やはり主稜を登ったのだろうか?)だけだった。
頂上で少し休み、展望を楽しんだら、白馬山荘まで少し下る。
山荘でコーラを買って水分とカロリーを補給した後、滑走準備をする。
白馬山荘の下から滑走スタート。
この好天で、しかも10時を過ぎているのに、標高の高いこのあたりの雪はまだ堅い。
しかし雪面はフラットで、滑りにくくはない。
エッジをカラカラ言わせながら慎重に滑り、右手の柳又谷源頭部に入っていく。
源頭部は屈曲していて、初めは旭岳に向かって滑る形になる。
少し進むと、右手に谷全体が見渡せる斜面の上部に出る。
うおー!
予想以上のすばらしさに思わず歓声が上がる。
すごいスケールの大斜面。
しかも、今日は滑った人がいないのか、あるいは堅くてシュプールがつかなかったのか、ノートラックだ。
斜度も手頃で、気持ちよく滑って行くと、少し下からはフィルムクラストになった。
もうたまりませーん。
春に、これだけの好スロープを、こんな極上の雪質で滑ることができたのは初めてのことだ。
スタートが栂池だったために遅めの時間になったのが功を奏したのかもしれない。
白馬岳と旭岳に挟まれた部分を過ぎると、旭岳の裏側から来たのか、左手の沢からのシュプールがあった。
右前方には、次に目指す鉢ヶ岳のコルが見えてくる。
行けるところまでフォールラインに向かって滑り降りたい気分だが、先のことを考えて、早めに長池方面に進路をとる。
このあたりは緩い登りもあったりで、ステップソールが有効だ。
それにしてもこの周辺はよだれが出るような斜面だらけ。
天気に恵まれれば、このあたりにテントを張って滑りまくったらものすごく楽しいんじゃないかと思う。
鉢ヶ岳のコル手前の長池は、大きな凹地となっている。
その凹地の縁を左に回り込んでいけば、ステップのままコルまでたどり着けそうである。
しかし、かなり遠回りになりそうなので、正面の急な沢状斜面ををツボ足で登る最短ルートをとる。
コル直下は雪が切れているが、背の低いハイマツのため藪こぎはなく、コルに到達する。
鉢ヶ岳のコルからは、東面をトラバースする夏道と同じルートをとる。
既にトレースがあった。
シールは貼らずに行く。
こういう長いトラバースも、ステップ板の利点が生きるところ。
トラバースから左の尾根に緩く登り(この尾根は若干雪が切れているところがあった)、少し下ると雪倉避難小屋が建つコルに着く。
避難小屋は頑丈そうな扉があって雪が吹き込んだりするようには見えないのだが、入口から土間は雪でいっぱいになっていた。
しかし、奥の板の間は乾いており、建物自体はきれいで、泊まれば快適そうだ。
さあ、ここから雪倉岳へ、最後の登りだ。
二重稜線のようになっている尾根と尾根の間の沢に雪が付いており、シールで登ることができる。
その沢状を登り切ると、最後は雪の消えた一重になった尾根を板を担いで登り、13:12、ようやく雪倉岳に到着。
やったー。
長かった…。
山頂からの眺望は、もやがかかったようですっきりとはいかないが、まずます。
白馬岳方面は雲がかかり始めていた。
蓮華温泉からピストンのパーティーはもう大方下りてしまったのだろう。
山頂で会ったパーティーは2組だけ。
テレマークの二人組が私と入れ替わるように滑降していき、その後山スキーの三人組が登ってこられた。
さあ、私も滑降だ。
うほー、ここもすばらしい大斜面。
もうちょっと急で緊張させられるかと思っていたが、それほどでもなかった。
しかも、ここもフィルムクラストときたもんだからたまらない。
これが最後まで続けば良かったのだが、そう甘くはない。
途中で左手の沢に下り、メロウな斜面を気持ちよく飛ばしていると、突然「ぐっ」と突っかかってバランスを崩しかける。
雪質が変わったのだ。
標高が下がるにつれて雪はどんどん腐って重くなり、私の細板は沈む沈む。
おまけに溝やら凹凸も出てくる。
昨日の栂池自然園にも増して、板が回らない状況。
雪質の良いところを滑っている間は気にならなかったが、こうなってくると、背中の重荷が響いてくる。
ひとたびバランスを崩すと、体が振られてしまってリカバリーが難しい。
プルーク、ワンステップターン、さらには斜滑降キックターンまで、様々な技術を駆使して必死に高度を下げていくが、しばしば転倒を繰り返す。
情けない。
あー、ここで、昔のロボットもの(ライディーンとか)みたいに、スイッチを入れると「ウィーーン」と板が変形して太板になり、革靴の周りにプラスティックが「ガシャッ」とセットされて太板ブラ靴に変身できればいいのに、なんて馬鹿なことを考える。
とにかく早く下りたい一心で先行者のシュプールを追っていくと、私がピークに着いたときに滑り出していったテレマーカーの二人組の方々が、板を外して登りの準備をしている。
この下は滝で、一本東側の沢に乗り換えないといけないのだが、乗り換える場所を通り過ぎてしまったとのこと。
漫然と先行者のシュプールについてきてしまったことを反省する。
それほど急な斜面ではなかったので、私はステップで登り返す。
15分ほど登り返したところで、左の小尾根に目立つ赤布を発見。
雪は消えているが、しっかりした踏み跡がある。
テレマーカーの方に伺うと、登りでもここを通ってきたとのこと。
私が事前に調べた資料では、雪倉ノ滝の隣の沢を登下降するということは書いてあったが、板を外して尾根を乗り越すと書いていたものはなかった。
そのため、私は、右へ右へと滑って行けばそのまま滝の隣の沢に入っていけるのだと思い込んでいた。
もし周りに人が全くいなかったら、かなり困ったことになっていたかもしれなかった。
尾根を乗り越して隣の沢に移ったところで休んでいると、ピークで会った三人組の山スキーヤーの方々もやってくる。
ここを滑り降りれば瀬戸川の徒渉点で、滑降終了になるということだが、ここが結構な急斜面。
雪質は、やはり厳しい腐れ雪。
もうかなり疲れも来ているので、本当にしんどい滑降。
板を外してツボ足で下りた方が楽なんじゃないかと思ってしまう。
何度か転倒し、へろへろになりながら、ようやく瀬戸川徒渉点に滑り着く。
瀬戸川徒渉点は、今回は雪が多く、スノーブリッジというよりも沢が埋まっているという感じだった。
辛い悪雪滑降は終わったが、蓮華温泉まではまだ1時間ほどかかるらしい。
先行者について登り、尾根上に出ると、ここから兵馬ノ平に下りて登り返すルートと、トラバースルートに分かれるとのこと。
今日はもうさんざん登ったという思いがあったので、ここでついトラバースルートを選択してしまったが、これが間違いだった。
腐れ雪で注意しないと足元が崩れるようなトラバースルートを延々歩くのは、決して楽ではない。
しかも、これがやたらと長い。
これならまっすぐ登る方が楽かと思う。
それでも、早く着きたい一心でスキーを進めるうちに、二人組テレマーカーよりかなり先行し、いつしか周りには人はいなくなっていた。
なかなかたどり着かず、もういい加減にしてくれないかと思っていたとき、前方に赤テープが目に入る。
ああ、もう近くまで来ているんだ、これをたどれば蓮華温泉だ、と赤テープを追って斜面を下っていく。
下った先の林の中に蓮華温泉のあの建物があるのだろうと信じて。
ところが、なかなか建物は現れない。
おかしいな、と思い始めたころ、前方に林が切れて明るくなっているところが見えてくる。
あそこかな、と思って行くと、開けた場所に出たものの、建物はない。
あれ?
ここでGPSを確認すると、現在地は湿原マークの端っこ。
「あ!」
自分の置かれた状況に気づく。
蓮華温泉~兵馬ノ平ルートのテープ標識を追って、兵馬ノ平に下りてきてしまったのだ。
トラバースの途中では「まだかな、まだかな」としつこいくらいGPSを見ていたのに、赤テープを見たとたんすっ飛んで、地図もGPSも確認せずに、何の疑いもなくテープを反対方向に追いかけてしまったのだった。
雪倉ノ滝上に続いて、ルートファインディングで本日2度目の失態。
疲れているときほど慎重・丁寧にルート確認をしなければいけない、と反省する。
さて、時間はもう16時を回っている。
日は長くなっているので、ここから蓮華温泉に登り返しても明るいうちには着けるだろうが、もう登る気力が沸かない。
今立っている場所のすぐ脇には沢が割れており、水が汲める。
水が確保できるならそれでいい、ビールも温泉も我慢しようと決めて、ここにテントを張ることにする。
距離22km、累積標高差4570m。
スケールでは2010年の雷鳥沢~池の平山往復(26km、5680m)より劣るが、縦走スタイルでのロングルートの走破に加えて、柳又谷と雪倉東面という有数の大斜面を、どちらも極上のコンディションで滑ることができ、私のこれまでのツアー歴の中でも一番といってよい、充実感たっぷりのツアーとなった。
ツアー記録一覧へ
GW白馬2日目は、まさに最高のツアーになりました。
力が入り過ぎて、レポート長過ぎ、書くのに時間かかり過ぎ(笑)。
ご容赦下さい。
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2014年4月27日 GW白馬② 栂池~白馬岳~雪倉岳
天候:晴れ
装備:(板)ポーラスター(靴)ビンソン
<コースタイム>
4:49 栂池ヒュッテ
7:05~7:16 稜線(船越ノ頭手前ピーク)
7:20 船越ノ頭
8:05~8:11 小蓮華山
8:55 三国境
9:51~10:02 白馬岳
10:10~10:32 白馬山荘
11:25~11:36 鉢ヶ岳のコル
12:04~12:28 雪倉避難小屋
13:12~13:38 雪倉岳
14:16 雪倉ノ滝上
14:30~14:52 トラバース地点
15:00~15:08 瀬戸川徒渉点
16:03 兵馬ノ平
GW白馬ツアー2日目。
思ったより低気圧の進行は遅く、当初3日目の後半には崩れると予想されていた天気が、3日目いっぱいまでもちそうである。
しかし、それでも4日目には天候悪化が避けられそうもない。
やはり予定を1日短縮し、今日雪倉岳を滑ることにする。
もともと石木田さんから勧められたのは、栂池ヒュッテを早朝に出発し、三国境から鉢ヶ岳を経由して雪倉岳に出て、蓮華温泉に下るというルートだった。
しかし、やはりこのチャンスに柳又谷も滑りたい。
栂池ヒュッテ~白馬岳~柳又谷~雪倉岳~蓮華温泉というルートは、『日本スキーツアールート集』(北田紘一編、山と渓谷社、1994年)では、途中白馬山荘で1泊する2日がかりの行程として紹介されている。
他の資料でも、この行程を1日で通過することになっているものはない。
しかし、『日本スキーツアールート集』では、雪倉岳から北面の遠回りルートを使っている。
雪倉岳は東面の最短ルートを滑ることにし、栂池から白馬山荘までと白馬山荘から蓮華温泉までの標準コースタイムの合計から考えれば、速いペースで1日で走破することもできないことはなさそうだ。
石木田さんに相談してみると、できると言われる。
そして、小蓮華山に至るルートとして、通常使われる天狗原~白馬乗鞍経由ではなく、栂池自然園を横断して金山沢をつめ、船越ノ頭に上がるルートを勧められる。
たしかにそのほうが近そうではあり、1日目に観察すると、そのルートで登っているパーティーがいたので、アドバイスに従い、そちらのルートをとることにする。
まだまほろば倶楽部参加者のみなさんが寝静まっている中起床し、予備の行動食で朝食をとって(前日に小屋に朝弁を頼むのを忘れていた…失敗)、出発準備をする。
ところで、私は、GWはテント泊と決めている。
柳又谷や雪倉岳での滑降を充分に楽しむためには、天幕装備を含む装備の軽量・コンパクト化が非常に重要である。
だが、既に昨年GWの尾瀬ツアーで装備の軽量・コンパクト化はかなり徹底してやっている。
昨年の装備に、アイゼン、ピッケル、スコップ等、今回のルートに必要最小限の装備を追加。
一方でさらに軽量化を追求し、今回も全装備をKODE38(Lサイズ42L)に納めることに成功、重量も昨年とほぼ同じ13kg強(水を含まず)に抑えることができたのは、予想以上だった。
準備を調えてヒュッテ前を出発したのは、夜明け前の4時49分。
当然のことながら雪は堅く、ステップの効きは非常に悪い。
初めからシールを貼ってしまおうかとも思ったが、少しでもスピードアップを図るためにはステップの利点を最大限に活用すべきと考えて、シールは貼らずに出発した。
自然園の平坦地と緩やかな下りでスキーを滑らせ、登りが始まるところでシールを貼る。
登り始めてほどなくして、日の出を迎える。
昨日ステップで登り、滑ったメロウ斜面を過ぎると、斜度が次第に増してくる。
それでも、いつもだったらまだ余裕で直登できる程度の斜度なのだが、今日はシールの効きが極端に悪く、しばしばバックスリップする。
ジグザグ登高に切り替えても、今度は接雪面が狭くなるためか、やはりグリップが悪い。
稜線までシールで登ることもできるのではないかと思っていた(実際、昨日登っていたパーティーはシールで登り切っていたようだった)のだが、こんな調子では時間と体力を浪費しかねないので、アイゼン登高に切り替えることにする。
板を外してシールを見てみると、シールの毛が逆向きになったまま固まってしまっている。
スキーのトップからシール面を手でしごいてみるが、元に戻らない。
これまでにも、立山などで早朝の堅い急斜面をシールで登るなんてことは何度もやってきたが、シールがこんな風になったのは初めてだ。
いつもと違ったことと言えば、昨年思わぬ新雪でシールの雪団子に苦労した反省から、出発前にたっぷりグロップストッパー(シールワックス)を塗ったことくらいだ。
逆立った毛がワックスで固まって、復元力が落ちたのだろうか。
アイゼンに履き替えて、登高を続ける。
12本爪のアイゼンを履くのはずいぶん久しぶりだ。
堅雪にアイゼンを効かせて登るのも、小気味よい。
稜線直下はステップが切られていたのでそれを利用し、7:05に稜線上、船越ノ頭わずかに手前の小ピークに到着。
ここまで2時間15分。
やはり天狗原経由より時間短縮できたのではないかと思う。
稜線に出ると、雪倉岳と、いかにもスキー向きの斜度で伸びる東面の大斜面がどーんと目に入る。
あそこを滑るのかと思うとワクワクする。
ここから小蓮華山までは、シールで行けないこともないだろうが、やや尾根が狭く、雪が飛んでいる部分もあるようなので、そのままアイゼンで進む。
小蓮華山は8:05着。いいペースだ。
これなら10時に白馬岳に着けそうだ。
小蓮華山を下りたコルから三国境までは、起伏の緩やかな広めの尾根に雪がしっかり乗っていて、いかにもシール登高向き。
履き替えの時間を入れても有利とみて、シールに切り替える。
この稜線から見ると、鉢ヶ岳のコルから雪倉岳までが思った以上に距離があるように見える。
白馬岳を越えた後にまた雪倉岳まであんなに登りがあるのかと思うと、柳又谷回りはやめて三国境から直接雪倉に向かってしまおうかと、弱気の虫が騒ぐ。
しかし、10時白馬岳なら柳又谷経由で充分行けるはずだと思い直し、頑張ることにする。
三国境から白馬岳に向かうと、すぐに雪壁に近い斜度の急斜面が現れる。
当然またアイゼンに履き替える。
さらに、短いがあそこまでの急斜面になると、ストックでは不安。
ピッケルを出す。
右手にピッケル、左手に短くしたストックという姿で、急斜面に切られたステップをたどる。
そこを越えると、なだらかな気持ちの良い稜線。
ピーク手前でもう一度急斜面を越え、9:51に白馬岳ピーク着。
ゴールデンウイークで賑わっているかと思いきや、人は少ない。
主稜を登ってきたパーティーが2組と、なぜかダブルアックスで歩いてきたテレマーカー1人(やはり主稜を登ったのだろうか?)だけだった。
頂上で少し休み、展望を楽しんだら、白馬山荘まで少し下る。
山荘でコーラを買って水分とカロリーを補給した後、滑走準備をする。
白馬山荘の下から滑走スタート。
この好天で、しかも10時を過ぎているのに、標高の高いこのあたりの雪はまだ堅い。
しかし雪面はフラットで、滑りにくくはない。
エッジをカラカラ言わせながら慎重に滑り、右手の柳又谷源頭部に入っていく。
源頭部は屈曲していて、初めは旭岳に向かって滑る形になる。
少し進むと、右手に谷全体が見渡せる斜面の上部に出る。
うおー!
予想以上のすばらしさに思わず歓声が上がる。
すごいスケールの大斜面。
しかも、今日は滑った人がいないのか、あるいは堅くてシュプールがつかなかったのか、ノートラックだ。
斜度も手頃で、気持ちよく滑って行くと、少し下からはフィルムクラストになった。
もうたまりませーん。
春に、これだけの好スロープを、こんな極上の雪質で滑ることができたのは初めてのことだ。
スタートが栂池だったために遅めの時間になったのが功を奏したのかもしれない。
白馬岳と旭岳に挟まれた部分を過ぎると、旭岳の裏側から来たのか、左手の沢からのシュプールがあった。
右前方には、次に目指す鉢ヶ岳のコルが見えてくる。
行けるところまでフォールラインに向かって滑り降りたい気分だが、先のことを考えて、早めに長池方面に進路をとる。
このあたりは緩い登りもあったりで、ステップソールが有効だ。
それにしてもこの周辺はよだれが出るような斜面だらけ。
天気に恵まれれば、このあたりにテントを張って滑りまくったらものすごく楽しいんじゃないかと思う。
鉢ヶ岳のコル手前の長池は、大きな凹地となっている。
その凹地の縁を左に回り込んでいけば、ステップのままコルまでたどり着けそうである。
しかし、かなり遠回りになりそうなので、正面の急な沢状斜面ををツボ足で登る最短ルートをとる。
コル直下は雪が切れているが、背の低いハイマツのため藪こぎはなく、コルに到達する。
鉢ヶ岳のコルからは、東面をトラバースする夏道と同じルートをとる。
既にトレースがあった。
シールは貼らずに行く。
こういう長いトラバースも、ステップ板の利点が生きるところ。
トラバースから左の尾根に緩く登り(この尾根は若干雪が切れているところがあった)、少し下ると雪倉避難小屋が建つコルに着く。
避難小屋は頑丈そうな扉があって雪が吹き込んだりするようには見えないのだが、入口から土間は雪でいっぱいになっていた。
しかし、奥の板の間は乾いており、建物自体はきれいで、泊まれば快適そうだ。
さあ、ここから雪倉岳へ、最後の登りだ。
二重稜線のようになっている尾根と尾根の間の沢に雪が付いており、シールで登ることができる。
その沢状を登り切ると、最後は雪の消えた一重になった尾根を板を担いで登り、13:12、ようやく雪倉岳に到着。
やったー。
長かった…。
山頂からの眺望は、もやがかかったようですっきりとはいかないが、まずます。
白馬岳方面は雲がかかり始めていた。
蓮華温泉からピストンのパーティーはもう大方下りてしまったのだろう。
山頂で会ったパーティーは2組だけ。
テレマークの二人組が私と入れ替わるように滑降していき、その後山スキーの三人組が登ってこられた。
さあ、私も滑降だ。
うほー、ここもすばらしい大斜面。
もうちょっと急で緊張させられるかと思っていたが、それほどでもなかった。
しかも、ここもフィルムクラストときたもんだからたまらない。
これが最後まで続けば良かったのだが、そう甘くはない。
途中で左手の沢に下り、メロウな斜面を気持ちよく飛ばしていると、突然「ぐっ」と突っかかってバランスを崩しかける。
雪質が変わったのだ。
標高が下がるにつれて雪はどんどん腐って重くなり、私の細板は沈む沈む。
おまけに溝やら凹凸も出てくる。
昨日の栂池自然園にも増して、板が回らない状況。
雪質の良いところを滑っている間は気にならなかったが、こうなってくると、背中の重荷が響いてくる。
ひとたびバランスを崩すと、体が振られてしまってリカバリーが難しい。
プルーク、ワンステップターン、さらには斜滑降キックターンまで、様々な技術を駆使して必死に高度を下げていくが、しばしば転倒を繰り返す。
情けない。
あー、ここで、昔のロボットもの(ライディーンとか)みたいに、スイッチを入れると「ウィーーン」と板が変形して太板になり、革靴の周りにプラスティックが「ガシャッ」とセットされて太板ブラ靴に変身できればいいのに、なんて馬鹿なことを考える。
とにかく早く下りたい一心で先行者のシュプールを追っていくと、私がピークに着いたときに滑り出していったテレマーカーの二人組の方々が、板を外して登りの準備をしている。
この下は滝で、一本東側の沢に乗り換えないといけないのだが、乗り換える場所を通り過ぎてしまったとのこと。
漫然と先行者のシュプールについてきてしまったことを反省する。
それほど急な斜面ではなかったので、私はステップで登り返す。
15分ほど登り返したところで、左の小尾根に目立つ赤布を発見。
雪は消えているが、しっかりした踏み跡がある。
テレマーカーの方に伺うと、登りでもここを通ってきたとのこと。
私が事前に調べた資料では、雪倉ノ滝の隣の沢を登下降するということは書いてあったが、板を外して尾根を乗り越すと書いていたものはなかった。
そのため、私は、右へ右へと滑って行けばそのまま滝の隣の沢に入っていけるのだと思い込んでいた。
もし周りに人が全くいなかったら、かなり困ったことになっていたかもしれなかった。
尾根を乗り越して隣の沢に移ったところで休んでいると、ピークで会った三人組の山スキーヤーの方々もやってくる。
ここを滑り降りれば瀬戸川の徒渉点で、滑降終了になるということだが、ここが結構な急斜面。
雪質は、やはり厳しい腐れ雪。
もうかなり疲れも来ているので、本当にしんどい滑降。
板を外してツボ足で下りた方が楽なんじゃないかと思ってしまう。
何度か転倒し、へろへろになりながら、ようやく瀬戸川徒渉点に滑り着く。
瀬戸川徒渉点は、今回は雪が多く、スノーブリッジというよりも沢が埋まっているという感じだった。
辛い悪雪滑降は終わったが、蓮華温泉まではまだ1時間ほどかかるらしい。
先行者について登り、尾根上に出ると、ここから兵馬ノ平に下りて登り返すルートと、トラバースルートに分かれるとのこと。
今日はもうさんざん登ったという思いがあったので、ここでついトラバースルートを選択してしまったが、これが間違いだった。
腐れ雪で注意しないと足元が崩れるようなトラバースルートを延々歩くのは、決して楽ではない。
しかも、これがやたらと長い。
これならまっすぐ登る方が楽かと思う。
それでも、早く着きたい一心でスキーを進めるうちに、二人組テレマーカーよりかなり先行し、いつしか周りには人はいなくなっていた。
なかなかたどり着かず、もういい加減にしてくれないかと思っていたとき、前方に赤テープが目に入る。
ああ、もう近くまで来ているんだ、これをたどれば蓮華温泉だ、と赤テープを追って斜面を下っていく。
下った先の林の中に蓮華温泉のあの建物があるのだろうと信じて。
ところが、なかなか建物は現れない。
おかしいな、と思い始めたころ、前方に林が切れて明るくなっているところが見えてくる。
あそこかな、と思って行くと、開けた場所に出たものの、建物はない。
あれ?
ここでGPSを確認すると、現在地は湿原マークの端っこ。
「あ!」
自分の置かれた状況に気づく。
蓮華温泉~兵馬ノ平ルートのテープ標識を追って、兵馬ノ平に下りてきてしまったのだ。
トラバースの途中では「まだかな、まだかな」としつこいくらいGPSを見ていたのに、赤テープを見たとたんすっ飛んで、地図もGPSも確認せずに、何の疑いもなくテープを反対方向に追いかけてしまったのだった。
雪倉ノ滝上に続いて、ルートファインディングで本日2度目の失態。
疲れているときほど慎重・丁寧にルート確認をしなければいけない、と反省する。
さて、時間はもう16時を回っている。
日は長くなっているので、ここから蓮華温泉に登り返しても明るいうちには着けるだろうが、もう登る気力が沸かない。
今立っている場所のすぐ脇には沢が割れており、水が汲める。
水が確保できるならそれでいい、ビールも温泉も我慢しようと決めて、ここにテントを張ることにする。
距離22km、累積標高差4570m。
スケールでは2010年の雷鳥沢~池の平山往復(26km、5680m)より劣るが、縦走スタイルでのロングルートの走破に加えて、柳又谷と雪倉東面という有数の大斜面を、どちらも極上のコンディションで滑ることができ、私のこれまでのツアー歴の中でも一番といってよい、充実感たっぷりのツアーとなった。
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